Lv.1
あれは小学校1年生のとき、GAOが「サヨナラ」を歌っていたころの話。

小学校時代、俺は家が学校からどっちかと言うと遠い方だった。
距離は約3km。子供だったしだいたい1時間くらいかけて登下校していただろうか。
慣れればそんなにしんどくはないのだが、3kmという距離も1時間という時間も、一人ぼっちで帰るときにはただただ退屈で、途方もなく長く感じた。
だから俺は、いつも一緒に帰ってくれる誰かを探していた。

西村康平は、俺と帰る方向が途中まで同じだった。
西村康平は、略して西康とみんなから呼ばれていた。
たまにしか一緒に帰らなかったが、それでも西康は一緒に帰れる数少ない同級生だった。

小一のときの帰り道、元気と無邪気さと好奇心の塊だった俺達は、無理やりにでも道端からおもろいもんを発見しようと常にテンションMAXで帰っていた。
宇山の歯医者のあたりを通りかかったとき、はしゃぎっぱなしの西康が妙なことを言い出した。

 「ピピピピ!!!ピピピピ!!!! 俺のおもろいもんレーダーが、この近くにおもろいもんがあると反応しよる!!!よし、こっちや!!!」

そう言って走り出す彼の後ろを俺もなんだかワクワクしながらついて行く。

 「あの散髪屋の曲がったとこに、おもろいもんがある!!」

そう言ってその場所に行ってみると、そこにあったのはただの発泡スチロールの箱だった。
しかし西康のテンションは変わらない。

 「よし、ほなこれをとにかく壊しまくろう!!」
伊「ファイナルファイトの車壊すやつの要領やな!!」
 「うん、制限時間は30秒!レディーゴゥ!!」

バキバキッ!!ドカッ!!

箱がみるみるうちに粉々になっていくのが快感だった。
すごい!!西康のおもろいもんレーダーは、本当にこんなおもろいもんを発見したんだ!!
何が楽しいんだか、そんなことを思いながらただがむしゃらに発泡スチロールの箱をぶっ壊していた。
しかし次の瞬間

「何やっとんじゃオラァ!!!!」

振り返ると散髪屋のおっさんがバリカン片手に鬼のような形相で立っていた。
おそらく突然の騒ぎに客の散髪を中断して来たのだろう。エプロンをかけたままだ。
俺達のテンションは一気に地の底まで沈み、そのまま渋々片付けをさせられた。

悪ガキの西康に比べ、親にも褒められながら育てられた俺は、見ず知らずの他人にここまで怒鳴られたのは初めてだったかもしれない。
ビビリ上がって、テンションガタ落ちのまま家に帰ろうとしていたが、散髪屋のおっさんが店内に戻ると、すぐに西康が吹きだした。

 「ハッハッハ!!!めっちゃ怒っとったなあのおっさん。」

ケロッと笑いながらそう言われ、俺も釣られて笑ってしまう。
さっきまでの沈んだ気持ちはどこへやら、すぐに元気を取り戻し、俺達は踏み切りのところでバイバイするまで一緒に帰った。


それから5年の月日が流れた小六のある日、俺と西康はまた二人で歩いて帰っていた。
くだらない話をしつつも、たまたまあの散髪屋の前を通りかかるあたりで話が途切れた。
一瞬の沈黙の後、ニヤリとした笑いを浮かべながら西康が口を開いた。

 「なぁいとっち・・・」 ※[いとっち]は伊藤のあだ名

なんとなくだが、その一言にまさか・・・と思った。

 「俺らが小一のときになぁ・・・」

あぁ、やっぱりか。西康が続ける。

 「あの散発屋の横で発泡スチロールの箱ぶっ壊してたら散髪屋のおっさんにめっちゃ怒られたよな。」
伊「うん、めちゃめちゃキレられたよな。西康がおもろいもんレーダーとか言うて行ったらあの箱があったんじゃよな。」
 「俺も適当なこと言うてたらほんまにあったけんおもろかったわだ。」

あぁ、あのときおもろいもんレーダーとか言ってたのはやっぱりただのでまかせだったのか。
しかしそんなのはどうでもよくて、覚えてくれていたことが素直にうれしかった。

でも西康、君は一つ間違っている。
多分君は、本当におもろいもんレーダーを持っているのだよ。
誰もが素通りするようなただの発泡スチロールの箱を、君は5年経っても笑い話にできるようなネタの小道具にしたのだよ。
そして、何の変哲もないただの発泡スチロールの箱を、18年経った今もこうして話せるような思い出の主役にしたのだよ。

俺は西康の独特なノリやギャグを誰よりも笑えてた自信がある。
特に中学2,3年頃の西康のそれは、完全に俺のツボだったのだ。
俺のおもろいもんレーダーが西康のおもろいもんレーダーに共鳴したり、その電波にロックされたりしていたのかもしれない。
こいつと一緒にいれば、こいつのおもろいもんレーダーがおもろいもんのもとへ導いてくれる。
そう信じて、俺はいつも西康とつるんでいた。

今度あの散髪屋の横を通るとき、その脇道に発泡スチロールの箱がないか見てみよう。
そしてもしあったら、あのときのように、無邪気にそれをぶっ壊してみよう。
散髪屋のおっさんに、「18年前のあの日のこと、覚えてますか?」と聞いてみよう。
そうすればきっと、散髪屋のおっさんに通報されるだろう。
変な人がよくわからないことを言いながら、うちの横で発泡スチロールの箱をうれしそうにぶっ壊してるんです・・・と。

P8133983.jpg
閑散とした商店街の中、今もちゃんとあるあの散髪屋。

20060904230255.jpg
中学の卒業アルバムより。スペースワールド帰りのバスの中での俺と西康。


※女性です。
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コメント
この記事へのコメント
何で、無表情なん?

何で、チュッパチャップス?

何味やったん?
2009/08/31(月) 23:52 | URL | フローター #-[ 編集]
>フローターさん
お答えします。


>何で、無表情なん?
多分スペースワールドで遊びきって、テンションのピークを過ぎて疲れが出始めてたんだと思います。
みんなホテルでほとんど寝なかったりしてましたし。


>何で、チュッパチャップス?
私はキャンディーの類はあまり好きではないので、誰かがくれたんだと思います。
バスガイドさんが「チュッパチャップス早溶かし選手権」というイベントをバスの中でやってくれてたので、そのときの余りを僕にくれたのかもしれません。


>何味やったん?
なんとなくですがパイナップル味あたりじゃないかと。
ストロベリーとかはあんまり好きじゃないですし。
2009/09/01(火) 07:41 | URL | fds #-[ 編集]
笑えるけどじ~んとした。
いい話やな~。。
2009/09/01(火) 09:29 | URL | いわりえ #-[ 編集]
>いわりえ
俺は昔からささいな出来事をやけに覚えてたけど、みんなはそれほど覚えてなかったりしたんよな。
でも西康がこのときのことを覚えていてくれたというのがうれしかったというただそれだけの話。
あと、西康はほんまにおもろいもんレーダーを持ってるという話。
西康ネタはもちろんいっぱいあるからまた時間があって気が向いたら書きます。

おもろいもんレーダーという言い方がなんとも西康らしいなと思いつつ、なんとなくFUJIWARAの原西あたりが言いそうだなとも思う今日この頃。
2009/09/01(火) 19:51 | URL | fds #-[ 編集]
西コーっぽいな(笑。

なんか
悪ガキの西康に比べ~から
バイバイするまで一緒に帰った~までのくだりが好き。

次回作も楽しみにしております。
相変わらずfdsのこういう日記が大好きないわりえより。
(日記というか短編小説だと思って読んでる)
2009/09/02(水) 15:32 | URL | いわりえ #-[ 編集]
>いわりえ
ありがとう。励みになります。

踏み切りでバイバイするまでっていってもほんの200mくらいまでなんやけどな。
靴屋の前を通って、かげやま、ひかりやの前を通って・・・。
靴屋とかげやまの間の埃だらけのガラス戸の建物って何なんやろとか今でも思う。
ってかローカルすぎるにもほどがある話。
2009/09/03(木) 20:41 | URL | fds #-[ 編集]
シックのおっさんw
くそわろたw
2009/09/03(木) 22:43 | URL | せきゆ #-[ 編集]
>せきゆ
もしやいきつけ?
ちなみに西康のいきつけは赤のれん近くの散髪屋です。
2009/09/04(金) 19:25 | URL | fds #-[ 編集]
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