Lv.1
13年前。伊藤は印藤に誘われて吉野川遊園地へ行った。
いろんな乗り物に乗ったのだが、その中で忘れられない思い出となったのはゴーカートである。
このゴーカートは時速30kmも出ないのだが、視点の低さとダイレクトに伝わってくる振動の臨場感などが体感速度を何倍にも高める走る凶器である。

このとき、運転席には印藤が乗り、助手席には伊藤が乗っていた。
初っ端からガンガン飛ばしていく印藤。
と、そこに、前方に自分たちと同年代の少年を発見。

「えぇこと考えた。」

印藤がニヤリと笑う。あぁ、間違いなくとんでもないことに巻き込まれるな・・・。伊藤は悟っていた。

「やめぇって!!!どうせぶつかってやろうとかいうんやろ!!!」

伊藤が印藤を止めるのは、少年への思いやりとかよりも、この速さにただでさえビビッてるのに、ぶつかるなんてとんでもないという恐怖が正直なところ大きかった。

「えぇわだ!!いけるって!!あぁいう奴には一発かましたらなあかんのじゃって!!!フハハハハハ!!!!!」

なにがえぇのか、なにがいけるのかよくらからない。
しかも自分で自分の言ってることの無茶苦茶さにウケてるやん。

だがもはやサーキットの狼と化した印藤を止めることはできない。

グイィィン!!!!

アクセルを踏み込み、さらに加速させる印藤。

「おらっ!!!いくぞっ!!!!」

ドンッ!!!!


・・・ぐっ!!!

強い衝撃に歯をくいしばるように表情をゆがめる印藤。そこまでするならぶつからなければいいのに・・・。
本当に人に嫌がらせをすることには全身全霊を尽くす男である。
少年はというと、ぶつかった瞬間シートにめり込むように仰け反り、直後に前のめりになるという、動きからするにムチウチになりかねない体勢だ。
お前はエアバッグの安全性テストのゴム人形か。スローでリプレイしたいくらいの見事な衝突っぷり。

ハトが豆鉄砲を食らったような顔でこちらを振り返る少年。

ドガッ!!!ドガガガガガガ!!!!!!!

そんな少年の様子など物ともせずさらにドカドカとぶつかりまくる印藤。グイグイと少年の車体を押し進めるかのようにぶつかり続ける中、印藤の表情に冷静さが戻りつつあった。恐ろしい奴だこいつは。どんな角度でぶつかり、どんなタイミングでアクセルを踏むのが一番恐怖心を煽れるのかを緻密に計算しているのだ。
そして、瞬時に分かった。あぁ、こいつは早くも飽きてきている。

「よし、ここらで一旦止まるか。」

案の定予測不能な行動に出る印藤。車を完全停止させる。
しかし「一旦」という言葉はいずれ再開するということの伏線でもある。

少年が見えなくなるくらい進むと、

「そろそろいくか」

と、アクセルを踏み込み、全速力で再び走り出す。
みるみるうちに近づく少年の背中。
けたたましいエンジン音に振り返った少年の表情は既に引きつっていた。「ヒィィィッ!!!俺が何をしたっていうんだ!!」と物語っている。
迫り来るこのカートがスピルバーグの出世作、「激突」のトレーラーさながらに見えていたのだろう。

このゴーカートはオートマだが、印藤のドSギアは既にオーバートップだ。
その瞳はまるで「この少年が泣いたら俺の勝ち」みたいなルールを自らに課しているかのような、勝負師の瞳だった。
曇り空の鈍い光を反射させるレンズの奥で、勝負師の瞳が怪しく光った。

―――今だ!!!――――


ドッ!!!ドガァッ!!!!


グウィイイィィィィィウィイィィィィ!!!!!!!!!

少年のカートは無残にもコースアウトになってしまった。
追いかけられた少年は知らず知らずのうちに速度を上げており、さらに後ろから追突されることで柵に乗り上げてしまったのだ。
だが、ここは吉野川遊園地。コースアウトになったからといって雲に乗ったおっさんが釣竿でフワフワとコースに戻してくれるような甘いサーキットではないのだ。

そして、一車線しかないこのサーキットでは前のカートが中途半端にはみ出しているせいで追い越すこともできず、結局印藤、伊藤のカートも立ち往生することになってしまった。

ヤーウェーイ!!!

一人ではコースに戻ることもできず、行き場をなくした少年はやはり泣いてしまった。

それを聞きつけ係員がやってくると、言葉にならない声で俺たちを指差しヤーウェーイ。
なんとなく状況を把握した係員に若干の注意を受けたあと、俺達は安全運転でゴールへと向かい、ゴール脇で控えていた少年の保護者にチクられてしまう前にとっととズラかったのであった。

だがしかし、吉野川遊園地は狭い。その少年及び保護者と何度もすれ違いそうになり、その度に俺と印藤は「あっち行こうぜ!!」と逃げるように興味もないアトラクションの方へと方向転換したのであった。俺はマジで怒られるのではないかとヒヤヒヤしていたが、印藤はそんなスリルも含めて楽しんでいるかのように、逃げながらも終始ゲラゲラと笑っていた。
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コメント
この記事へのコメント
待ってました!!!!!
fdsのこの昔話小説版のファンのりえこです★
いんぴが楽しんでるのが簡単に想像できる…あほやな~ほんま。。。
2007/01/09(火) 16:59 | URL | りえこ #-[ 編集]
あけおめ(・ω・)ノ

このゴーカートの話
昔インピが話してくれたけどここまで過激だったとは(笑)
少年に突っ込んで行って泣かせてしまうのはさすがインピやぁ(;゚Д゚)
2007/01/11(木) 21:50 | URL | sekiyu #-[ 編集]

どうでもいいことに必要以上にやる気になるっていうのがあのころのみんなの愛すべきところです。
この話の印藤の場合すごいどうでもいいし、むしろ相手にとってすごい迷惑やのにここまで必死になれているのがすばらしい。

今思うのはこのころから俺って助手席が定位置だったんだなぁってことです。
自分が運転することなんか全然ないバリバリのペーパードライバーですからねぇ。
春からはある程度運転することになると思うんだけどもちょっと不安。
2007/01/12(金) 23:27 | URL | fds #-[ 編集]
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